2017年ノーベル文学賞受賞作家 カズオ イシグロの「日の名残り」を読んだ感想。【ネタバレ】

2020年9月23日

今回は2017年のノーベル文学賞を受賞したカズオ イシグロの代表作「日の名残り」を紹介します。

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ダーリントン卿とは?

ダーリントン卿のモデルは保守党の党首であったネビル・チェンバレンです。

1937年5月28日にイギリス首相に就任しています。

チェンバレンはアドルフ・ヒトラーに対して宥和政策を取った事で有名です。

この作品中でもダーリントン卿はナチス関係者と秘密裡に会っています。

ファラディとは誰?

ファラディのモデルはJFK(ジョン・フィツジェラルド・ケネディ)です。

フィツジェラルド・ケネディを略してファラディですね。

ファラディは館のアメリカ人の新たな主人としてやって来ます。

品がなく狡猾な人物として描かれています。

ルーイスのモデル

ルーイスのモデルは、JPK(ジョセフ・パトリック・ケネディ)です。

JFKの父ですね。

ジョセフ・P・ケネディは1938年~1940年にかけて駐英大使を務めています。

任期中に親ナチス・反ユダヤ主義の発言を繰り返した事によって失脚しました。

ミス・ケントンはユダヤ人なのか?

ダーリントン卿から「ダーリントントンホールにユダヤ人の召使が何人いるのか?」と質問されたとき、執事のスティーブンスは「二人が該当するかと存じます。」と答えます。

スティーブンスが答えた二人にミス・ケントンは含まれていません。

スティーブンスはダーリントン卿に対して忠実な執事ですが、自分に都合よく振る舞う事があります。

スティーブンスは親ナチスなのでミス・ケントンがユダヤ人ならば、迫害する側とされる側で禁断の恋が成立してしまいます。

この構造はナラティブストラクチャー(伝統的な物語の構造)です。

「愛の嵐」や「シンドラーのリスト」でも採用されたパターンですね。

スティーブンスは同性愛者?

主人ファラディは「君は女性に興味があるの?」という感じで、スティーブンスをからかいます。

つまり新しい主人はスティーブンスを同性愛者と疑っているわけです。

なお執事が一生独身を貫くのは普通の事でした。

何かあった時、すぐに主人のもとへ駆けつけられるように住み込みで働く事を要求されたからです。

よって既婚者の執事は主人から避けられました。

そこそこお金を貯めて結婚を機にホテル業や飲食業に転職する執事もいたそうです。

 

さて同性愛を抜きにしてイギリスを語ることはできません。

当然カズオ イシグロもそのことを意識して作品を書いています。

イングランドでは1967年まで21歳以上の男性同士の同性愛行為は性犯罪法で処罰されました。

今から考えると何とも理不尽な法律です。

同性愛の嫌疑をかけられ自ら命を絶った人、国外へ移住した人はかなりいます。

ヘクター・マクドナルド

ヘクター・マクドナルドはファイティング・マックと恐れられ兵卒から昇進し侍従武官まで務めた軍人です。

将来はイギリス軍をしょって立つような将軍でした。

しかしニューヨーク・ヘラルド紙に同性愛の疑いありとのニュースを流され、拳銃で自らの命を絶ちました。

マクドナルド将軍には妻と陸軍中尉の息子がいたため、同性愛者であったかどうかは不明です。

当時は同性愛の嫌疑をかけられるだけで、死に値する出来事だったのでしょう。

アラン・チューリング

アラン・チューリングはドイツのエニグマ暗号機の解読者、コンピューターの基礎となる「チューリングマシン」の開発者として知られています。

1954年6月8日、同性愛であることを告発された事を苦にし、青酸カリを飲み自ら命を絶ちました。

アラン・チュアリングが存命であれば、どれだけの偉業を成し遂げたかと考えると残念でなりません。

チューリングの死は人類にとって大きな損失でした。

チューリングの人生は映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」で描かれています。

クエンティン・クリスプ

クエンティン・クリスプ(Quentin Crisp, 1908〜1999)はイギリスの作家です。

その当時としては珍しくゲイであることを公表して生きた人です。

イギリスでは誹謗中傷を受け続け、1981年にニューヨークに移住しています。

スティングはその生き方に感銘を受け、「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」を作りました。

クリスプも老女役でPVに登場しています。

なおクリスプは求められれば、あらゆる階層、人種、年齢、性別の人と会うというモットーを持っていました。

スティングとの出会いも、そうしたクリスプの姿勢から生まれたものです。

信頼なき語り手としての執事・スティーブンス

カズオ イシグロは物語の中に、信頼なき語り手を登場させて来ます。

この作品における信頼なき語り手は執事であるスティーブンスです。

南アフリカ戦争

南アフリカ戦争(アングロ=ボーア戦争)が時折、作品の中で触れられます。

この戦争はイギリスにとって苦しい戦争でしたが、ウィストン・チャーチルが捕虜収容所を脱走した話題は英国でセンセーショナルに伝えられました。

この脱走劇が後の議員当選につながるのですが、作品中では全く触れられていません。

スティーブンスが信頼なき語り手と言われる理由です。

親ナチスと反ユダヤ主義

ジョセフ・P・ケネディは親ナチス・反ユダヤ主義でした。

特にナチスを支持する発言を頻繁に行った為、マスコミや時の大統領フランクリン・ルーズベルトから顰蹙(ひんしゅく)を買います。

結局、ジョセフ・P・ケネディは1940年に辞任に追い込まれ失脚します。

ダーリントン卿は親ナチス・反ユダヤ主義の人物でした。

しかしスティーブンスは回顧する時になると、ダーリントン卿は親ナチス・反ユダヤ主義の人物ではなかった、と事実に反した主張をします。

 

ケネディ家というのは、日本にとって縁がないように思われますが、キャロライン・ケネディさんは2013年から2017年まで駐日大使を務めています。

キャロライン・ケネディさんはJFKとジャクリーン・ケネディの長女にあたります。

よってジョセフ・P・ケネディは祖父にあたります。

まさに華麗なる一族ですね。

なお現在は航空機メーカー、ボーイング社の取締役に就任しています。

共産主義に対する態度

この作品では直接的に中国・ソ連に触れていません。

中国は置物、ソ連はモスクムの村として描かれています。

カズオ・イシグロが日本人だからでしょうか。

中国、ソ連に対してはかなりシニカルに描いています。

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まとめ

この作品では「紳士とは何か」というテーマが常に問われます。

紳士とは何か?イングリッシュマンインニューヨークから抜粋しましょう。

It takes a man to suffer ignorance and smile
(英国紳士なら無知な輩から罵声を浴びせられても、微笑みで返しなさい。)
Be yourself no matter what they say
(誰に何を言われようが関係ない。自分らしく生きることだ。)~Englishman in New Yorkから引用

また「日の名残り」(The Remains of the Day)は英国紳士スティーブンスを狂言回しに使い、強烈にイギリスを皮肉った作品です。

日本生まれの英国人だから書けた作品かも知れませんね。

普通の英国人であれば、これだけイギリスをシニカルに描けなかったでしょう。

最後まで記事を読んでいただきありがとうございました。