2018年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞「万引き家族」を観た感想。【ネタバレ】

万引き家族」は、日本人監督作品としては、1997年の今村昌平監督『うなぎ』以来21年ぶりにカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した作品です。

カンヌ国際映画祭、コンペティションの選考基準は以下の通りです。

・作品の切実さ
・社会映画としての時代性
・物語の永続性
・起承転結
・リアリティ

カンヌ国際映画祭のパルム・ドールは映画人なら誰でも一度は取ってみたい賞でしょう。

年間数千本製作される映画の中で受賞できる作品はたった一つです。

この手の作品は「全米が涙した。」とか「感動の超大作」とかいう売り文句の映画が好きな人は、見てもピンとこないかもしれません。

「万引き家族」は「海街diary」と対をなす作品と考えていいでしょう。

音楽は細野 晴臣さん、撮影は近藤 龍人(こんどう りゅうと)さんが担当しています。

カンヌ国際映画祭とは

カンヌ国際映画祭はベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭と並ぶ、世界三大映画祭の一つです。

最高の作品には、パルム・ドール(黄金のシュロ)が授与されます。

また大規模なマーケットも同時に開催されるので世界中からバイヤーが集結します。

よってカンヌ映画祭でパルム・ドールを獲る事は、興行的な意味からも大変重要な意味があります。

「万引き家族」は興行的には成功したのか?

日本では45億円の興行収入を達成し興行も大成功でした。

邦画の場合、大体10億円が成功の目安です。

中国でも15億円の興行収入を上げています。

日・中で合計60億円です。

製作費を3億円とすれば20倍の回収率です。

下手なハリウッド作品よりもヒットしたのではないのでしょうか。

製作会社もかなり潤ったはずです。

今後、是枝監督の元にはNetflixのような配信業者から映画製作のオファーが殺到するでしょう。

主要登場人物の紹介

まず作品の理解を深めるため登場人物を紹介しておきます。

柴田初枝(樹木希林)

万引き家族の大黒柱。

年金や亜紀の実親から受け取る3万円で家計を支えている。

不動産は自己所有なので、家賃や地代はかかっていない様子。

パンチコ屋で他人のドル箱をくすねるしたたかさも合わせ持つ。

総じて危機回避能力が強い。

柴田治(リリー・フランキー)

日雇い労働者だが、がっつり働いているわけではない。

月の収入は5万円程度。

仕事のない日は店舗での万引き、車上荒らしをこなす。

意外と小心者な所がある。

孤独には耐えられず、みんなでワイワイガヤガヤと暮らすのが好き。

柴田信代(安藤サクラ)

治の若い妻。

クリーニング工場でパート勤務をしている。

その後、手癖の悪さが災いし解雇される。

解雇された後は、仕事に出ず年金の不正受給で生計を立てる。

亜紀(松岡茉優)

実家に居場所がなく初枝の元に転がり込んで来た少女。

信代の妹という設定。

実父である柴田譲(緒形直人)は亜紀の所在を知っているが、妻はオーストラリア留学に行っていると信じ込んでいる。

柴田譲は生活費として毎月3万円を初枝に渡している。

亜紀自身は家にはお金を入れていない。

祥太(城桧吏)

千葉県にあるパチンコ屋の車中に放置されていた所を治たちが連れて来た子供。

学校には通えず、治とコンビを組んで万引きにいそしむ日々を送っている。

ゆり(佐々木みゆ)

家の外に放置されている所を、治が見かねて家に連れて来た子供。

その後カメラの高さは、ゆり目線で撮影される。

ゆりは視聴者の暗喩でもある。

起承転結で映画を分析

起承転結でストーリーを分析していきましょう。

子供は別として、大人はビールやら酎ハイやらをやたら飲んでいます。

カップ麺やソーメンなどの麺類、コロッケなどの総菜類も多いです。

貧困層の生活がリアルに描かれています。

まぁあれだけアルコールを飲んでいる所を見ると、貧困層という一言でくくるのはどうかと思います。

犯罪に手を染めているという問題はありますが、家族全員がそれぞれ楽しくやっている雰囲気がこちらにも伝わってきます。

承では登場人物たちの問題点が浮き彫りになります。

そもそも万引きや誘拐で成り立っている家族なので公的扶助や教育が受けられません。

非常に脆弱な日常生活が描かれています。

治は日雇い労働者で生活が安定しません。

信代も勤め先のクリーニング店の業績が不振で解雇されます。

そうなると万引きや車上荒らしに手を染めるという負のスパイラルに入って行きます。

物語が大きく動くのが、転の部です。

初枝の死

この家族のフィクサーだった初枝が老衰で亡くなります。

治や信代には生活をやりくりする能力に欠けています。

家族の大黒柱を失ったことで、一家はさらに万引きに手を染めていきます。

祥太が万引きで捕まる

ゆりが万引きで店員に捕まりそうになります。

まだ慣れていないのでバレバレなわけです。

やばいと思った祥太はミカン袋を盗み、捕まります。

この事件が一家離散の引き金となります。

結局一家は逮捕、拘留されバラバラになります。

罪を全てかぶったのは信代でした。

信代は刑務所に収監されています。

治は執行猶予がつき公的扶助を受け、小さなアパートに住んでいます。

祥太は施設に預けられ、亜紀に関してはどこに住んでいるかは不明です。

ゆりに関しては、実親のアパートに戻っています。

ゆりは視聴者の暗喩です。

視聴者もまた元の場所に戻った事になります。

安藤サクラの圧倒的な存在感

百円の恋」を観た時、これは困った女優さんが出て来たなと思いました。

日本の映画界では演技力のレベルが頭3つ程度抜けています。

キャリアの中で、どれだけ日本アカデミー賞主演女優賞を取るか想像できません。

他の女優さんは、スキマを狙っていくしかない状態です。

今やキャリアを重ね観音菩薩のような顔になっています。

往年の名女優・高峰三枝子さんを彷彿とさせます。

なお日本アカデミー賞主演女優賞は、吉永小百合さんの4度獲得が最多です。

好きなシーン

自分なりに好きなシーンを上げてみました。

海水浴のシーン

初枝以外が波打ち際で戯れるシーンですね。

リリーフランキーさんは、このシーンを「貧乏な海街diary」と評していました。

ステテコ姿で「それ水着じゃない」とか突っ込まれて、海に突き落とされるシーンとか秀逸です。

ラムネを飲むシーン

安藤サクラさんがラムネ飲んでゲップするシーンがあります。

これがアドリブなのかどうか不明です。

この場面を演じられるのは、世界広しといえども安藤サクラさんだけでしょう。

実は信代役の安藤サクラさんが、「治は子供に父ちゃんと呼ばせようとするのに、なぜ信代はママとかお母さんと呼ばせようとしないのか?」と是枝監督に質問したと言います。

そこでラムネのシーンが追加されました。

このシーンで信代は「(お父さん・お母さんと呼ばない事は)大したことじゃないよ。」と言っています。

信代の取り調べのシーン

審査委員長のケイト・ブランシェットが絶賛したシーンです。

ここはほぼ安藤サクラさんのアドリブです。

「盗んだんじゃない。捨てられていたから拾っただけ。」という言葉が身にしみます。

実際、信代の言った事は真実です。

じゃあ我々の社会はどうすればいいのか。

是枝監督は、我々に問いを投げかけています。

そこで個人的に解決策を考えてみました。

・里親制度の充実
・児童税額控除の導入
・給付付き税額控除の導入
・家賃保証制度etc.

まぁこのあたりまでは、サラサラと出ますね。

日本は世界3位の経済大国です。

米・中・日の中で一人あたりのGDPは2位です。

よって年のインフレ率が2%になるまで財政出動が可能です。

経済的なバックグラウンドがある国は、積極的な財政政策が取れます。

もちろん、所得の再分配にはAIと量子コンピューターを使います。

不正受給対策もAIがやってくれるので楽勝です。

後ろの正面は誰

ゆりはあなた自身です。

一度入った家族からまた引き離されます。

是枝監督の「海街diary」とは逆のパターンとなっています。

視聴者も作品から抜け出して日常に戻されるわけです。

血縁や戸籍上のつながりがあるから、居場所があるわけじゃないんですよね。

この最後のシーンは現代社会に対する強烈な皮肉となっています。

まとめ

この作品ではのべつくまなし子供たちを親が抱きしめます。

「温もり」がひとつのテーマですね。

他者とのつながりを持ってる人は強いというメッセージです。

現代社会において私も含め、ほとんどの人が他者とのつながりを軽視してるんじゃないかなと思います。

もう我々は他者=敵みたいな思考回路が刷り込まれていますからね。

大げさな話ではなく、ちょっと人間関係を見直していこうという気になりました。

そうして行けば、色々運も向いて来るんじゃないかなと思います。

生まれてから死ぬまで他者=敵みたいな思考であれば、ほぼ砂漠みたいな人生になってしまいます。

最後まで記事を読んでいただきありがとうございました。